オジェに本拠を置くドメーヌ・ヴァンシーは、
現当主のQuentin Vincey カンタン・ヴァンシーで8代目になります。
1988年生まれのカンタンは、アヴィーズのリセ・ヴィティコールで学んだ後、
独学でワイン造りを習得するため、オーストラリアとフランス各地の
造り手を訪ねて回って、直接生産者と交流して、
様々なこと特にビオディナミについての情報を徹底的に吸収しました。
そして、2008年にドメーヌに参画。
もともと父の時代までは協同組合で、コート・デ・ブラン以外の
モンターニュ・ド・ランスやコート・デ・バールなどに
約7ヘクタールの畑を所有していました。
しかし、カンタンは自分の目の届く範囲の畑に完全に専念するために、
オジェとメニル・シュール・オジェに所有する畑以外は
全て他人に栽培を委託することにしました。
それらのブドウは、カンタンの父の時代と同じく
共同組合のシャンパーニュとして販売されていますが、
カンタンはそちらの栽培や醸造には全く関与していません。
カンタンが自身で管理する“ドメーヌ・ヴァンシー”としての畑は、
オジェに3.5ha、メニル・シュール・オジェ0.5haで、
2008年からすぐに除草剤や殺虫剤などの化学薬品の使用を止め、
ビオロジック(AB 認証)に転換しました。
また、ビオディナミも導入して、
一年を通して常に畑を観察して目を光らせています。
そして6年を掛けてビオとビオディナミによって
畑の生命力が高まったと判断した2014年から
ドメーヌ元詰めのシャンパーニュを手掛け始めました。
4haの畑をビオディナミで栽培していますが、
自分の理想とするシャンパーニュ造りには資金が必要なため、
今も半分以上のブドウはネゴシアンに売却しています。
しかし、ビオディナミのネゴシアンのみを厳選してブドウを売却しています。
一部名前を明かせるのはルクレール・ブリアンとド・スーザになります。
ドメーヌはブドウ栽培だけでなく、養蜂や果樹、牧畜、野菜など
様々な農業家が加盟するビオディナミの団体MABD
(Mouvement de l'Agriculture Bio-Dynamique)に加盟しており、
勉強会などを通じて常に最新の情報を学び続けています。
栽培について
耕耘は、土に空気を入れることと、土が固まってしまうのを避ける目的で、
表土のみを軽く耕しています。
ドメーヌの元詰めキュヴェのブドウを栽培しているリュー・ディの畑に関しては、
馬で耕耘をしています。
馬はオジェに住む隣人が所有するもので、
ドメーヌの所有する村の牧草地で管理されています。
動物もできる限り地元で生育されている動物を使いたいという考えからです。
畝の間にはカバークロップを生やしており、
2019年からはそれを全ての区画に広げました。
施肥に関しては、堆肥や有機肥料は用いていません。
その代わりに、緑肥として、イネや野菜、穀物などを畑に撒いて栽培しています。
例えば、エンバク(オーツ麦)のような穀物は土を換気し、
土をしっかりさせる働きがあります。
また、空豆のような野菜は地中に窒素を供給する働きがあります。
これらの植物は春に畑を鋤く際に土と一緒に耕し、
畑にすきこんで肥料にしてしまいます。
また、他の植物を生やすことによって畑と
畑の周囲の生物多様性が広がるという利点もあります。
剪定法に関しては、シャブリ式を採用しています。
シャブリ式剪定法は、ブドウ木の樹液の流れを妨げないため、
ブドウ木にとって最も優しい剪定法であると考えているからです。
剪定は、ビオディナミカレンダーに則って、
天体と月の位置を考慮した最適の日に行っています。
徒⾧枝はつるをワイヤーに固定する際に全て取り除きます。
また、主要な区画では夏季に伸びた新梢の先端を切る
摘芯(ロニャージュ)を止めて、
伸びた枝を編み物のように束ねるトリコタージュを行っています。
成⾧ホルモンはブドウ樹のツルの先にたまるため、
摘芯をすると、ホルモンバランスが逆転してしまうのからです。
除葉は、その年の天候や状況に応じて実施しています。
いずれにしても、ドメーヌでは畑作業で最も大切なことは、
毎日畑の声に耳を傾けて、ブドウ木の変化や
エネルギーバランスを注意深く観察して、
その変化に応じて畑作業を行うことであると考えています。
折りたたむ