~ウド・ヒルシュ記~
*ドメーヌ創業年
 2008年
*ブドウ品種について
 トルコには1,200以上のブドウ(以下、同じ)品種があるが、
 その全てがワイン醸造に向いているわけではありません。
 公式には毎年400万トンを超える葡萄がワイン・干し葡萄・シロップに加工され、
 国内では主に生食用として流通していますが、
 広く行われている個人的な葡萄栽培の収穫は、この数字には含まれていません。
 西アナトリア地方にあるギュゼルユルトGuzelyurtで、
 私は様々な地元のブドウを使って計画的に実験を行いました。
 その際、味覚的にさほど影響を与えないと思われるバルーン型ガラス容器で
 醸造を試みた結果、ワイン醸造に向いていることが分かった3種類の土着品種と、
 隣接する地域の3種類の品種を、現在用いています。
 *アンフォラワインについて
 我々は友人のイルハンIlhanとともに窯業の町アヴァノスAvanosで
 最初のアンフォラワインを造ったのですが、
 そのワインは他人に分けることを控え、
 自家消費しなければならなりませんでした。
 大型の陶製容器は、昔から様々な使用目的のために、
 粘土や泥質粘土が混じり合った地元の土を使って、
 様々な温度で焼成されてきました。
 ワイン醸造に向く容器は、そのごく一部です。
 そういう知識を得るために、
 何百リットルも無駄にしなければならなりませんでした。
 『正しいやり方』とされている方法が、
 実践においては常に上手くいくとは限らないので、
 私は実際にワイン醸造に使われていたことが判明している、
 古いワイン用アンフォラを探しました。
 やがて4~12世紀に造られた3つの『ビザンツ式』アンフォラ
 (カッパドキアの修道院のものだった)と、 18~19世紀に造られた4つの
 『オスマン式』アンフォラを入手ました。
 更に私は、ジョージアでアンフォラについての見聞を広めました。
 ジョージアでは今日に至るまで、「クヴェヴリ」という大きいが
 非常に薄手の陶製容器が製造されている。
 ジョージアのワイン醸造においては伝統的にセラーがないので、
 そこではこの陶製容器はまるごと地中に埋めています。
 アナトリア産の非常にしっかりした厚手の古い容器「キュプ」Kupは、
 地上に立ててあることが多いが、安定させる為に
 下端のごく一部を地中に埋めることもあります。
 経験を重ねた今では、どのように造られたアンフォラが
 ワイン醸造に適しているかを心得ているし、
 友人と共にアンフォラワインの特別な味わいを楽しむようになりました 。
 2002年にトルコでは新しい法律(No.4733)が施行され、
 それにより自家消費用に一人あたり375Lまでしか醸造できないことになりました。
 が、それでは自分用と友人や知り合いが飲む分を合わせただけで、
 その枠を簡単に超えてしまいます。
 また同時に、地元を訪れる観光客向けに、伝統的な方法で醸造した、
 地元産の自然なワインを提供したいという気持ちもありました。
 一方でキュプ製の伝統的なワイン醸造をするのには、他の目的もありました。
 市場のニーズにあわせて工業的に造られるワインばかりが
 ますます増えている中で、
 そうではないものに価値を見出そうとする試みです。
 その為、1,200種類以上にのぼる葡萄品種の遺伝子的多様性を
 保存しようと試みました。
 それは同時に、小規模生産者にとっては、伝統的かつ簡単で、
 エコロジカルでもあり経済的で持続可能な経営形態を
 提示することでもあると考えました。
 こうして私はゲルヴェリ社Gelveri Ltd.の共同経営者となり、
 役所に商業的なワイン醸造の許可を求めました。
 手続きは非常に煩雑で、認可まで実に18ヶ月を要しました。
 現在私は、公的に厳しく管理された醸造所の共同所有者です。
 認可をとるために必要だった少量のステンレスタンクによる『近代的』
 醸造よりも、アナトリア産のキュプによる伝統的な醸造に
 多くの時間と場所をあてています。
 造り手略歴:醸造学の教育は受けたことはなく、
       ワインメーカーのもとで研修したことはない。
 マニフェスト
 私たち協会(※1)のメンバーは、この協会に自発的に参加し、
 その行動規則を採用している。
 それは、以下のような理由のためである。
 私たちは、クヴェヴリによるワイン醸造という伝統を尊重し、
 大切にし、次世代へと守り継ぐ。
 クヴェヴリによるワイン醸造は、数千年も続いており、
 人類の農業活動における重要な偉業のひとつとして認められているのである。
 クヴェヴリによるワイン醸造のうちには、創造性が深く根付いていると考える。
 そのため、ブドウ栽培・ワイン醸造分野の危機を
 乗り越えられるだろうと信じている。
 クヴェヴリによるワイン醸造とその醸造環境とは、
 互いにごく密接した概念であり、
 それだけでなく、どちらか一方が欠けていれば互いに存在できないような、
 相互の関連のうちにあると考えている。したがって次のことに同意する。
 ブドウ畑とその環境に対して与える脅威を最小限に抑えること。
 ブドウ畑の生物多様性を追求すること。強烈で体系的な薬品処置や、除草剤、
 化学肥料の使用は避けること。大型機械を使った栽培は可能な限り減らし、
 収穫期にブドウ摘み取り機を使用しないこと。
 クヴェヴリで醗酵、熟成させたワインは、ブドウ品種やテロワールの特性を
 表すものでなければならないというのが私たちの信条。
 そのため、ワインの醗酵/マセレーション過程における介入を
 最小限にすることには賛成である。
 これは、ワインの性質に変化をもたらすような薬品や
 醸造方法は使わないことを意味する。
 たとえば、選抜酵母・酸・酵素・タンニン・エキス、
 清澄剤、逆浸透圧法、加糖、加熱方式、亜硫酸をワインの醗酵および
 マセレーションの過程で使用しない。
 (亜硫酸は、熟成中のみ、あるいはビン詰め前に、
 少量だけ投与することがある。)そして、ワイン醸造のすべての過程において
 精密ろ過用フィルター器を使用しない。
 (ビン詰め前の経度なフィルター処理は認める。)
 私たちの目標は、まず次世代に健全で、生き生きとし、
 肥沃なブドウ畑を残すこと。さらに
 同世代に、ワインの味わいや風味を楽しむ機会を与えること。
 それから自然だけが与えることのできる生き生きとした
 エネルギーを得ることである。
                      クヴェヴリ・ワイン協会
                      副代表 Soliko Tsaishvili (※2 )
(注釈)
 ※1  クヴェヴリ・ワイン協会
    ジョージアで、自然なブドウ栽培およびワイン醸造に関して、
    共鳴し合っている生産者たち の小規模集団。
    団体のコンセプトは、国際的NPO団体“Slow Food”(スローフード)での
    活動の1つである“プレシディオ計画(※3)”の哲学に基づいている。
    発足・2008年 代表・ Ramaz Nikoladze氏 副代表・ Soliko Tsaishvili氏
    メンバー・11名(小規模ワイナリー生産者含む)
    5生産者/イメレティ地方、 5生産者/カヘティ地方、
    1生産者/カルトゥリ地方
 ※2  Soliko Tsaishvili 氏
    カヘティ地域のワイナリー所有者。当協会メンバーのうちの1人。
 ※3  プレシディオ計画
    小規模生産者を地域で直接支援し、彼らが伝統的な市場を開拓するのを
    助けることによ り、伝統的な生産方法を守るもの。
    わずか2つのプロジェクトから始まったが、
    今では世界中で314のプロジェクトを包括している。
    プレシディオは、生産者を集め、
    生産自身が販売促進を調整できる環境を整え、
    彼らの商品の品質と評価の基準づくりを支援することで、
    小規模生産者による食品の生産技術を安定させ、厳格な生産基準を設定し、
    伝統的な食物に発展力のある将来を保証しようというもの。
    プレシディオ食品は、料理人や専門家たちを魅了しただけでなく、
    一般的な消費者にもその価値を認知させることができた。
    プレシディオの成功により、意識を持った消費者は良質な食品に対しては、
    生産が経済的に成り立つような公正な価格を支払うことが証明された。
(Slow Food Japan HPより引用)
折りたたむ